不倫おじさんの身勝手さ・超論理の言いくるめ術を学べる『はじめての不倫学』
女子の恋愛の悩みは、セフレ・婚活・不倫でできている
「お焚き上げ恋愛相談」を始めてみて、毎月いろいろな相談がくるわけですが、その中でも特に多いトピックが見えてきました。
圧倒的に読まれるのが「婚活」もの、つまり「相手が現状いなくて相手が欲しい」相談。で、相手がいる場合はトワイライトグレーゾーン、セフレと不倫の相談が多いです。不倫だと身バレがガチやばいということでほとんど非公開相談なのでリンクは紹介できないのですが、「不倫多いな?」ってことで不倫にはまる人の分析をし始めてます。で、手に取ったのがこれ。
「社会問題として考える」「不倫は防ぐべき」という筆者の立場を最初に表明してあるから手に取ったわけなんですが、結論からいくと「不倫クラスタのホメオパシー論者」でした。
「不倫を防ぐ方法を述べていると思ったら いつのまにか不倫を推奨していた」
摩訶不思議な異次元に放り込まれて脳みそ大混乱。一人で読んでて「ふぇっ!?」と変な声が出てしまいました。だがしかし、筆者はあくまで「不倫を防ぐ不倫ワクチンとして、不倫を大真面目に提唱している」というこの論理飛躍の魔空間。ちょっとね、こういうトンデモ理論を予告なしに出さないで欲しいんですよ。いくらガールミーツ妖怪に慣れてるからといって、ダメージは食らうんだからさ。
というわけで、今回のレビューは乱切り!
「不倫は感染症。不倫ワクチン開発が必要」ね、なるほど。続けて。
最初に筆者は「不倫は社会問題である」として、「不倫は感染症のようなもので感染すると後で重大な損害を引き起こす」ため、不倫を事前に防ぐ「不倫ワクチン」の開発を提唱しています。
不倫を防ぐべき理由は、以下の5つ。
- 不倫は高確率で周囲にバレるから。
- 不倫後、現在のパートナーと別れて不倫相手と結婚しても大半はうまくいかないから。
- 子供に「感染」して、メンタル面や将来にも大きな影響を与えるから。
- 「不倫未遂」(配偶者以外の相手に恋をしたり失恋したりする)があるから。
- 不倫には中毒性があるから。アルコールやDVと同じで、不倫は一度やってしまうと常習化しやすい。
お、おう。
MECEじゃなさすぎて怒りのデス壁ドンしたくなるんですが、ここでいっちばんモヤモヤするのが「パートナーの感情はどうした?」問題。
子供のメンタルを考えるのはわかるけど、自分が結婚相手に選んだパートナーの感情はどうした。これ、本の最初から最後まで書かれていないんです。あるのは「自分の傷をどう癒すか」という、不倫する側の心の傷ばかりケアしてる。
人を傷つける側のメンタルケアばかりな不倫学・恋愛工学
すっごい不気味ですが、すっごい既視感。そう、恋愛工学!
恋愛工学も「振られて傷つく男たちのメンタルケア」として「複数の女子を相手にする分散」を提唱し、「図にのるな。お前は女を傷つけられるほど偉くないよ」という意味不明な説教型の安心を与え、「相手の女性は傷つかないからこういうことをしても平気」という罪悪感からの解放を与えています。
つまり、加害者のメンタルばかりをケアして、被害者のことは感情のないゾンビとして扱っている。この手法って軍隊が使いますよね。「加害者であるために、良心や罪悪感を殺す訓練」を最初にやって、心の琴線を叩き切る。
「お前は正しい。だから傷つく必要はない」
「傷つかないようにするために、他人を利用しよう」
「他人は傷つかないから思うとおりにやって大丈夫なんだよ」
相手への思いやりと痛みへの共感が欠如した、サイコパスと同じ匂いを感じます。
不倫という社会問題の本なのに「不倫」がオレオレ定義
最初に感じた違和感は中盤の「不倫ワクチンを開発せよ」から膨張しまくり、最後の結論「夫婦関係を維持するため、ポジティヴな婚外セックスを社会的に受容せよ」までノーアクセルで超論理峠まで突っ込みます。
うん。婚外セックスは不倫じゃないのかな?てゆーか不倫だよね?
不倫を防ぐための手法が婚外セックス=不倫って、ちょっと論理がウロボロスぎてついてけない。
なんでこんなトンデモ結論が出たかというと、「不倫」の定義がおかしかった。
法律上、不倫は「不貞行為」とされます。
不貞行為は「一夫一婦制の貞操義務に忠実でない一切の行為」であり、裁判では「配偶者のある者が、自由意志で、配偶者以外の異性と肉体関係を結ぶこと」
というわけで、性交渉をした段階で不倫です。離婚裁判では「継続的・繰り返しの不貞行為」が判断基準となります。
一方で、筆者はこう定義しています。
「既婚者が、配偶者以外の相手と恋愛感情を伴った肉体関係を持ち、かつその関係を継続する意思を相手方と共有している。
出、出た〜〜〜〜〜オレオレ定義奴〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜。
シャチョ=サン、なんで定義に「恋愛感情を伴った」って入れたネ。それだと確かに「恋愛感情をともなわない婚外セックス=ポジティヴな婚外セックス」は不倫に入らないネ、ウンウン。
法定義ガン無視して社会問題ブチあげないでくれます?
そもそも、主題の「不倫」という超重要ワードの定義がずれてるせいで、最後に「不倫のない世界にしたい!そうだ!不倫しよう!」みたいなトンデモ理論になっている。
「継続的な婚外セックス」は現行法では立派な不倫で、裁判で負けること確定です。
筆者が提唱しているスワッピングは夫婦の合意前提だからちょっと毛色が違うにしても、「妻の合意」について「ポジティブ婚外セックス」のところで語られてないってことは、基本は「隠す」のが前提ってことでしょう。
それなのに「夫婦関係を維持するため、ポジティヴな婚外セックスを社会的に受容せよ」っていう結論は、つまりは「裁判で負けることを社会的に受容しよう」ってことで、まったく現実的じゃない。それだったらハッキリ「現行法は現状に合ってないから、不貞行為の定義を変えて法律を変えよう」というべきです。
「不倫は防ぐべき」と言っておきながら、「婚外セックスをできるようにしよう!」と言ってる筆者は、「婚外セックスを肯定したい不倫おじさんと言ってることが何ひとつ変わらない。
「帰る場所はキープで婚外セックス☆」都合の良さ全開
筆者が不倫を防ぐべき理由として一番重視しているのは「恋愛感情を伴うドロドロ不倫に陥ると、家族を大切にできなくなるから」であり、「家族を大切にするために婚外セックスをしよう」ってなるのですが、前にも書いた通り、ここには「婚外セックスをされた側」の心についての視点がごっそりと、気持ち悪いほどに欠如している。
婚外セックスをされた側からすれば、これまでの信頼は一気に瓦解するし、裏切られた痛み、不信、嫌悪感、怒りでパートナー側のメンタルが一気に崩壊する可能性があるわけです。
ですが筆者は、不倫する側のテンプレ「黙ることが相手への思いやり」論をバッチリ展開。
「すべてを曝け出すことが誠実ということではない」
「嘘も方便」
「言う必要のないことをあえて言うリスク」
傷つけるかもしれない、ということをわかってるわけです。なのに最終回答が「愛のない婚外セックスが不倫ワクチン」って、どう控えめに見てもやばい。
恋愛感情があるかどうかになんで固執するかっていうと、たぶんパートナーを傷つける側=自分に取って一番望ましいのが「家族を維持すること」「婚外セックスをすること」だからでしょう。
つまり、自分の帰る「ホーム」は残しておきたい。でも、婚外セックスはしたい。そのために、たくさんの事例を用いて自説を正しいものに見せかけようとしている。
「感情を殺せ」というサイコパス論理
そもそも、人類で一番強い感情は「嫉妬」だと思うんですよ。一夫一婦制が多くの国で採用されているのは、「自分のパートナーを独占したい気持ち」「嫉妬」という、とてつもない暗黒パワーを秘めている嫉妬の爆発を最小限に抑えるためだと思ってます。キリスト教やユダヤ教、イスラム教が「姦淫すべからず」って言ってるのも同じ。
一方で、「自分が嫉妬するのは嫌だけど、自分はいろいろな人とセックスしたい」という希望(特に男性)は太古の昔からあって、それが「男の浮気は罪にしないけど女は重罪」っていう都合のいい法律などに現れている。
「自分とパートナーの嫉妬、黒い感情」をどうマネジメントするかを議論せず、「恋愛感情がなければ大丈夫」っていうのは、「(自分にとって都合の悪い)感情を殺せば平気!傷つかない!」って言ってるのと同じ。 軍隊訓練、サイコパスの論理です。
結論:「婚外セックスがしたい」が本音の不倫おじさん本
というわけで、不倫をする側のメンタルケアのために、パートナーのメンタルを犠牲にしろ(ていうかそもそも考えてない)という筆者は、「他人を自分のために搾取する妖怪・不倫おじさん」としてモンハンしたいと思います。
こんなベタベタな不倫おじさんの言い訳を、この長さで、文献を駆使して書くってある意味すごい曲芸だなとは思うけど、こんな生産性ゼロの提案のために伐採されたジャングルがあまりにも哀れだし、そのせいで失われた酸素排出量のことを考えると、グローバルスタンダード効率厨としては涙が止まらない。
不倫をする側への配慮だけでなく、不倫をされる側の配慮があればもっといい本になってたと思うのに、この読後の虚無感と言ったらないですよお嬢さん。
提案:本書の有効活用法
さて、心の中で焚書した本書ですが、私は森林に優しいので、いくつか有効活用法を考えてみました。
1 不倫関連のデータを見る
定義と結論は妖怪言語ですが、不倫にまつわるデータはそこそこ集まっていて面白いです。既婚者のうち不倫をしているのは1〜2割とか、40〜70代の男女に「交際相手に配偶者がいる」と質問したら「男性の21%、女性の51%がイエスと回答」したとか、面白いものがたくさんあります。文献もそこそこある。
2 自分に都合のいい超論理☆妖怪男の思考回路を学ぶ
読めば読むほど「身勝手なことを論理っぽく言って丸め込もうとする」気持ち悪さを味わえる本書は、「論理的に正しいっぽいことを言ってくるけど納得できないことをしてくる男性」の思考回路をよくトレースできると思います。
加害者側のオレ様論理展開としては王道パティーンだと思うので、セフレ・モラハラ・不倫に悩んでいるお嬢さん方は読んでみるといいかも。でも言いくるめられちゃダメですよ!
本書を読んで「なんか納得…かも…でもモヤモヤするけどよくわかんない…」とかいう感想が出てくるお嬢さんは、不倫とセフレの餌食になる可能性が高いので気を付けましょう。いやマジで。
こういう「論理的なことを言ってるように見えて超論理な男性」ってハイスペ男性陣にワッサワッサいるんで、本当に気をつけましょうね。解散!!!
ツイッターランドの生息地
今まさに目の前で若い子がおっさんにいい店に連れて行ってもらうことで調子にのっていく姿を見て、世知辛いなぁって思っている。不倫までいかないプレ不倫で変に舌とか感覚が上がっていくやつ。よっぽどの「踏み外さない」覚悟がないとあっという間に奈落だが、そんな覚悟があって踏み超える女も稀。— ぱぷりこ (@papupapuriko) 2015, 11月 17
超論理☆妖怪の話
相手の痛みを考えない人、共感を殺した人についての本
- 作者: マーサスタウト,Martha Staut,木村博江
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- 作者: デーヴグロスマン,Dave Grossman,安原和見
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どちらも、「人を傷つけることにためらいがない人たち」についての本。「良心を持たない人々」は生まれつきのサイコパス(25人に1人はいる)。「人殺しの心理学」は、職務として他者を傷つけざるをえない戦争の時に「良心をどう殺すか?」という「良心の去勢」方法について書いています。
「良心の去勢」をした人がどう誕生するのか、どうやって見抜くかを書いているので、「自分の不倫相手が何を考えているのかわからない」「優しいのに怖い」と思う女子たちにオススメ。
恋愛工学がすごいのは、「人を搾取する側の罪悪感を殺すやり方」をちゃんと導入してるところ。「女はお前ごときでは傷つかないよ」とか、何の根拠もないし普通に考えてありえない言葉によって主人公が安心して良心を捨てる下りはヤバイ。
- 作者: アゴタクリストフ,Agota Kristof,堀茂樹
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2001/05
- メディア: 文庫
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映画化もされましたねー。第二次世界大戦を生き延びるために、幼い双子が「心を殺す訓練を自らして、どんどん痛みを忘れていくサイコホラーです。ラストの衝撃と虚無感と言ったらないよ。