「愚かな女よ、光あれ」と神男は告げた
唯一なるおのれへの忠誠と服従の姿勢を試すため、旧約聖書の神は「愛すべき一人息子をいけにえに捧げよ」と荒野のアブラハムに告げましたが、まさか21世紀の新橋で「自分への服従を示すために供物を捧げよ」とデート相手に言われることになるとは思いもしませんでした。
今回の妖怪:神男
元彼が激務すぎて突然のネトウヨミソジニー爆発化という衝撃の事件から半年ぐらいした頃のお話。「そろそろ出会いが欲しい」と言っていたところ飲み会に誘われ、そこで出会った男子が別れたばかりということで意気投合。お互いの元カレ元カノの話になりました。
「表面上は優しかったんだけど、仕事が忙しすぎて一気にタガが外れたみたいで人がかわっちゃって。自分が気にいらないことはぜんぜん受け入れられない人になっちゃった」
「俺は逆で、元カノのダメなところを受け入れすぎてしまったのが原因かなー」
「そうかー相手のいいところも悪いところも受けとめられる関係が理想だよね」
「相手のダメなところでもちゃんと受けとめる」、いいこと言うじゃないか旦那。ちょうどお互いに恋人もおらず、しかも本の趣味と食べ物の趣味がやたら合ったので、あれよあれよとデートする関係に。
「付き合ってほしい」と言われてOKしてからの初デート。ビールうまーと幸せいっぱいなところに、おや?となる一言。
「世の中の女性の9割はつまらないよ。ドラマ見て時間を消費してるだけ」
文脈上は「だからぱぷりこは特別だよ」というわたしへの口説き文句につながったのですが、相手の女性をを上げるためにほかの女性をdisる男にろくなのはいない。
これまでは一緒に行くごはん屋がおいしすぎて(食べ物につられました)食べものや本の趣味の話ばかりしていたので、相手の考えとかあまりチェックしてませんでした。ん?となったので、インタビュー開始。
「世の中の女性が9割つまらないっていうけど、じゃーこれまで付き合った人は残りの1割だったの?」
「もちろん9割のほうだったよ」
「9割は好きじゃないのに付き合ったの?」
「9割の女子は好きだよ。愛情の安売りしてくれるし」
愛情の安売り?????
「ぱぷこはわかんないかー。愛情の安売りしないもんね」
「???安売りってどういう意味?自分が誰かを好きなとき、愛情を安売りしてると思ってるの?」
「まさか。自分から安売りなんてするわけないよ」
「(質問の答えになってない……)よくわからないけど、そもそも安売りという言葉が指す意味がわからないから、定義を教えてほしい」
「なにか怒ってるの?別にぱぷこに安売りしろと要求してるわけじゃないよ。(店員さん:ラストオーダーでーす)あ、すみませんお会計をお願いします」
あのね、タイミングが悪かった。飲んでた。飲んでた。遅かった。おなかいっぱいで眠かった。でも、そういう幸せな気分がかっとぶぐらい、言ってる意味がマジわかりませんでした。普通ならもう1件はいくんだけど、違和感警察が金切り声をあげていたので振り切って帰り、翌日インタビュー再開。
君の願いは受けとめておくよ
「昨日の話だけど、愛情の安売りがどういう意味かちゃんと教えて。あと、それ以前に『愛情の安売り』という言葉はあまり好きじゃない。人の愛情を市場原理ではかってるようで、感じが悪く思う」
「それはどうも」
「それはどうも、てのは返事になってないと思う。わたしはわからないところは質問するし、それに対してはちゃんとした返事がほしい」
「気付いてないみたいだから言っておくけど、『感じ悪い』というのは感じ悪いよ」
「(永久機関論法キターーーーーー)『感じ悪い』がいやなら『イメージが悪い言葉で人を不安にさせる』とでも言い換えるね。ていうか、伝えた内容ではなく言い方を批判するのはごまかしだよね。ずるいやり方だと思う」
「ずるいと思うのは自分の思いどおりにならないからだと思うよ」
「????????いや、わたしの言った内容になにも返事も反論もしてないよねって言ってるの」
「お願いするなら、言い方ってものがあるよね?フィードバックは受け取っておくよ。『愛情を値踏みするような言い方はしないでほしい』という願いは分かったので、心に留めておく」
お願いっ!!!!!!フィードバックっ!!!!!!受け取っておくっ!!!!!!なにこの超絶上から目線!!!!!!!!????
てゆーか、わたしの質問になにひとつ適切な回答を返してないのに、なぜそんなに超絶えらそうなんだ。それでもね、まだ人間なのかな?って思ってたんです、この時は。
「わたしの言い方が悪くてちゃんと伝わらなかったり、不愉快にさせたのなら謝るよ。でも、最初に女性を馬鹿にするような発言をしたのはそちらだよね。言い方が悪かったのはお互いさまだと思う」
「まだ立場がわかってないようだけど、ぜんぜんお互いさまなんかじゃないし、お互い譲歩し合うといった話でもないよ」
はい無理ーーーーーーーーーー*\(^o^)/*
人生ではじめてですよ、「まだ立場がわかってないようだけど」とか言われたの。お前は悪の軍団の中ボスか。「気づいてないようだから言っておくけど」という字面を見て「あなたがたに言っておく」というキリストの決めゼリフを思い出しましたね。
もーまじ唯一神。
神は絶対の忠誠を誓った人間については庇護し、その願いを受け入れる。忠誠の証を示求めて、生贄を要求する。神じゃなくてただの一般企業の総務のはずなんだけど、精神だけはりっぱな唯一神。
「だめなところも受けとめる」ではなく「だめなところを受け入れてやる」
彼が言う「だめなところを受け入れる」というのは、わたしが想定していた「いいところも悪いところも受けとめる」のではなく、「自分よりも劣ってる女の愚かさをこの俺が受けいれてやる」という意味でした。
いちおう裏をとらないと気が済まないので確認してみたところ「彼女のダメなところ=毎回、待ち合わせに遅刻するところ」とか程度だったようで「君には1時間はやく待ち合わせ時間を伝える ことにしようか」みたいなことを言ったら拒否られたことを「彼女のダメさを受け入れすぎて、彼女を甘やかした」と表現していたようです。いや、それ何も受け入れてないから。注文つけたら断られたのを、甘やかした結果つけあがらせたとかなに言ってんだ。まじ時空がゆがみすぎてて怖い。
彼にとってデフォルト設定で「女は男(っていうか俺)より劣っている」。
ちなみに神男は超大手企業の総務で、お客さん相手の仕事をしたことはありません。いつも作業をお願いされる立場で、ネゴとか調整とかそういう泥くさいことをやったことがなく、ついでに若くして新卒採用の人事なんてやっちゃったもんだから、「使えない新卒を俺が選んでやってる。使えないやつのダメなところを受け入れてやってる」という自意識がゴッチゴチに強化されたのでしょう。
「まわりに本を読んでいる人がいない」という言葉も「俺ほど本を読んでいる人間はいない。俺は特別。まわりの一般人はバカ」という見下し精神ゆえの言葉。
「ぱぷこは僕にとって特別」なんじゃなくて「ぱぷこは特別な俺と話せるぐらい本を読んでいるから、頭が悪い女どもの中では特別」って意味だったわけです。
デフォルトで「愚かな女」設定なものだから、女性と接するときには「愚民にたいして寛大な俺」モードが炸裂。
「愛情を安売りしてくれる=供物を出す」なら庇護下に置いておいてやる。だけど絶対なる自分に愚かな女がはむかうことは許さない。彼が不愉快にならないような言い方で「お願い」しなくてはならない。だから「立場がわかってないようだから言っておくけど」などという超絶上から目線の発言ができるわけですね。
当然のことながら目下の者へ謝る気などありません。わたしが不快になったことへのケアや気づかいや謝罪などはみじんもなく「フィードバックは受け取っておく」のみ。すごい。人間と話してる気がしない。すべてがクソリプすぎてグラグラする。
コンサル男と神男の違い
世界を創造した神は実力も実績もありますが、神男は根拠も論理も実力もなく、なぜか「自分は圧倒的に優れており、ほかの愚かな人間(特に女)とは立場が違う」という自意識だけを過剰なまでに肥大化させてしまっている。
ここが、論理モンスターのコンサル男とは違うところです。コンサル男は良心はないけど、頭の回転は正しく速く、仕事はできる人が多い。
コンサル男ほど仕事ができるわけでもなく(そもそも会話が成立できない非論理さ)、とりたててめだった特徴のない普通の人なのに、神男は神の精神を持っていました。根拠のないところに神は宿る。
結論:会話がバベりすぎてて無理だった
なぜわたしがデート時に見抜けなかったかというと、わたしのことを「愚かな9割の女」扱いしてなかったから、ちゃんとした人間だと思ってしまった。まーふつう、目の前にいるのが神男だなんて想像しないけどさ。
あと、「ありがとう」「ごめんなさい」が言えない男は、たとえどんなにスペックが高かろうが表面上は優しかろうが、問答無用で一発退場アウトにしてよろしい。尊敬する川崎さんも指摘していますが、本当まじこれです。
「ありがとう」と「ごめんなさい」と「スマイル」はゼロ円と思っている我々には理解しがたいのですが、どうやら彼らは、これらゼロ円の言葉は、特別な時だけに使う言葉だと思っているらしいのです。
独身女性におくる「結婚向きのいい男」5つの特徴 | @ninoya_blog
ダメ男を切る、最もわかりやすい指標のひとつだと思ってます。
そんなわけでその場で、
「高圧的な発言をする人とは人生で関わりたくないので、OKという返事は撤回します。さようなら」
と、告られてから最短5日、初回デートのみで終了宣言しました。
女の方から見限られるのは神男にとってはありえないらしく、わたしの非論理性を非論理的に指摘して、いかに自分が正しくわたしが間違っているか、これしきのことで感情的になる(わたしがだそうです)愚かで思慮の浅い君を許してやってもいいと、わたしの蒙を啓こうとしてきましたが、おまえに与えてもらう光などないっ!!!!!
目の中に丸太がはいってるのは、わたしではなくあなたです。この人と会話を成立させるのは、ラクダが針の穴をとおるより難しい。
あまりにも会話がバベルの塔すぎてSAN値がごりごり削られていると、ちょうどいいところに仲のいい女ともだちからメールが(当時はまだメールだった)。
「初デートどうだったー♡?」
「別れた」
「えっ!!!!!??????」
「神だった」
「神!????!!?!?!?!?」
どーいうことだと詰め寄られ(そりゃそーだ)、デート時に教えてもらったうまい店で2人でワイン2本を開け、ヤハウェーイして供養しました。
石版に掘って保存しておきたい級のありえないお言葉を下界に残し、最大風速で去っていった神男。教えてもらった店のごはんだけはおいしかった。
ヤハウェじゃなくてキリストだったらまだよかったのになーと思いました。キリストの逸話で好きなものは、イチジクに近づいたら実がなくてがっかりしたのでイチジクの木を呪ったところです。なぜ呪った。
阿刀田さんの「知っていますか」シリーズはどれもおもしろいうえにわかりやすく、ハズレなし。「わたしは妬む神である」と高らかに宣言するユダヤ教の神すごいなと子供心に畏れを抱いた。
いやーバベってた。同じ言語のはずなのに言ってる意味がぜんぜんわからなかった。
関連エントリ
こちらは神ではなく信者の方の男でした。自分で思考せずに救われたい人が、スピリチュアルと新興宗教にハマる。
コンサル男は論理的な話なら通じますが、神は論理的な会話すらできませんでした。